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「世界を拡げる」きんいろモザイク【13周年記念】

 本日2022年12月19日は、原悠衣先生の「きんいろモザイク」がはじめてゲスト掲載されたまんがタイムきららMAX2010年2月号の発売から13年となる記念の日です。

◆◆スペシャルゲスト◆◆
みなみ「かすみのそら」 坂ノ上高校に転校してきたかすみ。ちょっぴりはずかしがりやさんだけど、がんばります!
原悠衣きんいろモザイク
しのぶの元に英国からやってきたアリスですが……!? 
しろ「ふたりトラベル」
北海道に訪れたひなたち。そこには広大な自然が広がっていて……。

まんがタイムきらら - マガジンページ - まんがタイムきららMAX (dokidokivisual.com)

 忍が陽子や綾とともに通う学校に転校してきたアリス。そして物語にはカレンが加わって5人組となり、アニメ化を経て穂乃花や香奈もすっかり顔なじみ。そんなきんいろモザイクも、さみしいもので原作も去年の3月に終わり、最後の映画も上映終了からもう1年が過ぎてしまいました。

 しかし、物語の終わりは物語を読むことの終わりを意味しません。むしろ、これ以上の展開がないということから物語の全体を見通して読むことがはじめて可能になるわけです。それでは、14年目を迎えたきんいろモザイクを読んでいきましょう。

 

 劇場版「きんいろモザイク Thank you!!」の最後では、これまでのアニメの場面を切り取った映像とともにエドワード・エルガーの"Land of Hope and Glory"が流れます。

Land of Hope and Glory,
Mother of the Free,
How shall we extol thee,
Who are born of thee?
Wider still and wider
Shall thy bounds be set;
God, who made thee mighty,
Make thee mightier yet.
God, who made thee mighty,
Make thee mightier yet.

 さて、この歌詞中 "Wider still and wider shall thy bound be set;" の部分に着目してみましょう。日本語に訳すならば「広く、よりいっそう広くあなたの国境線は引かれるだろう」というあたりになりましょうか。この曲が作られた当時の大英帝国の拡張主義的な政策の反映ということもできます。

 とはいえ、この曲がきんいろモザイクで用いられたというところから、きんいろモザイク的な解釈もしてみたいところです。国だから国境線という言い方をしたけれど、boundの意味としては境界。ようするに内側として動ける領域を広げていくということになります。そうすれば、きんいろモザイクという物語のなかで忍たちが自分たちの世界とする範囲を拡げていく、というように考えられるのではないでしょうか。

 さて、そうした観点からきんいろモザイクを読んでみることにしましょう。

綾の場合

 忍と陽子のいる中学校に転校してきた綾。転校してすぐのときの様子は1巻89ページで語られています。わりと積極的にかかわりにいこうとした忍は「お お気遣いなく」と綾に遠慮されてしまい、内向的な性格が見えてきます。そんな綾は陽子に「無理矢理引っ張って」いかれ、結果として忍や陽子と親密になることとなります。

 そうした綾に転機が訪れるのは高校進学が視野に入ってくるころ。Pretty Days の描写に従えば、綾は親や先生にもすすめられていた水蓮女学院*1というお嬢様学校をめざし、実際に合格しました。一方、忍と陽子は綾にすすめられた県立もえぎ高校を受けることにし、綾の指導を受けながら必死の勉強を続け、無事にふたりとも合格することができました。一方で綾ももえぎ高校を出願しており受験に訪れ合格していました。

 ここで綾にはふたつの選択肢が与えられました。親や先生にもすすめられ、実際レベルが高いとされる水蓮女学院に通う。あるいは忍や陽子のいるもえぎ高校に通う。結果として綾はみずから後者を選び、忍や陽子とともにアリスやカレン、穂乃花や香奈、烏丸先生や久世橋先生のいる高校生活を送ることができたのです。もしかすればですが、水蓮女学院に通っていればもとの内向きな綾に戻ってしまっていたのかもしれません。

 以上のように、綾は最初は陽子の手で引っ張られる形で受動的に世界を拡げ、それがもえぎ高校に行くという形で能動的に世界を拡げる行動へとつながったのです。

カレンの場合

 イギリスでのカレンの世界といえばアリスでした。物語のなかでイギリスは具体的な形をとらない場所として扱われていて、そこにいるのはアリスとカレンにその家族ぐらい。むろん友人がまったくいなかったわけではなく原悠衣先生によってはほとんど語られなかっただけという部分もありましょうが、それにしてもアリスとカレン以外の話はほとんどなく、唯一無二に近い、それこそカレンがアリスを「ファーストラブ」の相手と言ってしまうような大事な存在だったといえるでしょう。

 そんなカレンがアリスを追ってイギリスからやってきた直後、カレンはすぐにアリスの友人である忍・陽子・綾と仲良くなりました。しかし1巻88ページ以降*2、クラスで疎外感を得ているという完乗を吐露します。そうしたところについて忍たちに相談をして、最終的に自らホームルームで前に立って仲良くなりたい、気軽に話しかけてと話しました。

 その結果か、カレンのもとにはひとが集まるようになっていきました。休み時間のカレンにはお菓子が集まるようになり、2年生になってからは久世橋先生という存在に出会います。そして3年生の文化祭では出し物としてカレンちゃんカフェを行うことがクラスのみんなに受け入れられ、大盛況となりました。さらにいえば高校生活を通して松原穂乃花という新しい大切な友人に出会いました。そうしたさまざまな経験から、カレンは忍とともにイギリスへ戻るアリスの決断を尊重しつつ、自らもアリスから離れて日本に残るという決断をすることができたのです。

 以上のように、カレンは最初に能動的に動いた結果として物事が自然にうまく回り、世界を拡げることにつながったといえます。

 

 ここまで綾とカレンというふたつの具体例を通してきんいろモザイクの「世界を拡げる」ようすを見てきたわけですが、この2例は対照的なものであるといえます。最初に受け身な行動から自分から動くことにつながった綾、最初に自ら動いて世界を拡げやすい環境を作ったカレン。この反対ともいえるような「世界を拡げる」ありかたを見せることで、多様性をもつ読者が共感しやすい構造として作品を作り上げている。みなさんがきんいろモザイクを好きになれるのもそういうところから始まっているのかもしれません。

 今回は綾とカレンに絞ってお伝えしましたが、もちろんきんいろモザイクという作品の世界の拡げ方はそれに限られるものではありません。物語の根幹をなす忍の成長がその最たるものでしょう。みなさんも「世界を拡げる」という観点から14年目を迎えたきんいろモザイクを読んでみてはいかがでしょうか?

*1:わかば*ガールの若葉はこの学校に落ちた。

*2:さきほどの綾についての回想シーンもこの延長でのもの